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福岡高等裁判所 昭和25年(う)1013号 判決 1950年7月29日

被告人

木村利国こと

塚田和三郎

主文

本件控訴を棄却する。

当審の未決勾留日数中六十日を本刑に算入する。

当審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

弁護人鶴田英夫の控訴趣意第二点について。

所論の如く、昭和二十五年三月二日附起訴状には「公訴事実」として「被告人は生活費に窮した結果復員者に対する世間の同情心を利用して飲食物金銭等を騙取しようと企て復員軍人の服装を着用し各地を徘徊し殊更復員軍人らしき言動を弄し、その旨誤信した相手方より夫々、別紙犯罪表の通り金銭等を提供せしめて、之を騙取したものである」と記載し、右犯罪表中、最後の第六の項には「犯罪日時昭和二十五年一月中旬、犯罪場所佐世保市島瀬町一一三番地、被害者中山正男外五名被害額現金八百円、備考旅費名義」と記載せられているところ、右犯罪表第六項に関する詐欺の事実を数個の独立した犯罪事実と解すれば、犯罪の日時、場所、欺罔手段及び被害者中山正男の氏名の点を除き、各被害者の氏名及び被害金額等を特定することができないから、結局本件起訴状は右第六項の詐欺の事実に関する限り訴因を特定し得ない不法があることになるけれども、これを欺罔行為、騙取行為並びに騙取の目的物何れも一個であつて、社会生活上の観念としては、単なる一個の行為と認められ、只その被害者たる相手方が数名であるため、法律的には数個の詐欺罪に触れる事実関係にあるものと解するならば、右の如く犯罪の日時、場所並びに手段方法を明記した上、被害者たる相手方数名の内、一名だけの氏名を代表的に掲げて、何某外何名と表示し、且その数名から一括して受取つた金員総額を表示する以上、訴因の示し方としてやゝ簡略に失する憾はある。(従つて本来ならば、各被害者の氏名等を表示し、且各被害者毎にその出金した金額を記載することが望ましいし、又公判手続において被告人側から要求があれば、検察官は之等の点を明らかにすべき義務があると言わねばならないが、本件公判手続において、検察官は、その証拠提出により、自ら之等の点を明らかにしていることが窺われ、且被告人側からこの点に関し、何等の要求、或は異議を申出でた形跡も存しない)が必ずしもこれを不法にして起訴を無効ならしめるものとは目し難く、前記起訴状の記載は寧ろ、後者の趣旨に解するのが相当と考えられるから、原判決が右訴因につき、公訴を棄却しなかつたからと言つて、必ずしも、所論の様な違法があるものと言うことはできない。

而して、右第六項の金八百円の騙取金員の内、氏名不詳者一名の、出金にかかる金百円について、原判決において、特に直接の判断を明示していないこと所論の通りであるけれども、原判決が、その添附一覧表六の昭和二十五年一月中旬頃、佐世保市島瀬町百十三番地における犯罪として、中山正男外四名(松藤四夫、山村フヂ子、須藤博子、小島文子)から合計金七百円を騙取した事実を認定していること、及びその判文全体に徴すれば、原審は所論の氏名不詳者出金にかゝる金百円について、右詐欺罪の認定から、除外した趣旨であることを、窺うことができるのであつて、結局数個の罪名に触れる一個の犯罪行為につき、その範囲を縮少して、有罪の認定を為したものに過ぎないから、斯る場合、右有罪の認定に洩れた部分につき、判決主文において、特に言渡を為す必要がないのは勿論その理由においても、必ずしも特別の判断を明示する必要はないものと言うべく、原判決にはこの点に関し、所論の様な刑事訴訟法第三百七十八条第三号の判断を遺脱した違法はない。従つて右第二点及び第三点の論旨も理由がない。

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